平山郁夫―仏教伝来と旅の軌跡 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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今年2024年にめでたく開館20周年を迎える平山郁夫シルクロード美術館。
(その詳細は、昨日の記事で→https://ameblo.jp/artony/entry-12851756056.html

それを記念して現在開催されているのが、

“平山郁夫―仏教伝来と旅の軌跡”という展覧会です。

 

 

 

本展の目玉ともいえるのが、

展覧会タイトルにもある《仏教伝来》

1959年の再興第44回院展で発表されたもので、

平山郁夫の画業の起点となったとされる重要な作品です。

 

 

 

この作品を描いた当時、平山は29歳。

画家として無名で、非常に困窮していた上に、

幼い頃に広島で被爆した影響で、体調も絶不調、

経済的にも肉体的にも精神的にも、どん底の状態でした。

そんなある日、数年後に控えた東京オリンピックの聖火リレー関連の記事を目にしたそう。

記事には、「シルクロードの天山南路をランナーが運んだら面白い」とありました。

そこにインスピレーションを受けた平山に、ある構想が思い浮かんだのです。

それは、玄奘三蔵がインドでの修行を終えて、

真実の仏教を伝えるため自国へ帰るというもの。

自分自身への祈りも込めて描いたこの作品は、

当時の大物美術評論家・河北倫明に認められたようで、

これを機に、平山は一躍注目を集めるようになったのです。

そんなマイルストーンの作品だけに、

やはり《仏教伝来》は、圧倒的なパワーがあります。

なお、改めてよく観てみると、変なところもありました。

 

 

 

鳩の脚、長っ!

というか、平和の象徴を、そんな風に掴むなよ。

 

ちなみに。

《仏教伝来》は、佐久市立近代美術館の所蔵品であり、

今回の開館20周年記念展のために、特別に貸出されています。

さらに、同じく佐久市立近代美術館の所蔵品で、

《仏教伝来》の翌年に描かれた《天山南路(夜)》も、

5月9日より、併せて展示される運びとなりました。

 

 

 

さらにさらに、その両側に展示されているのが、

平山郁夫の集大成ともいうべき連作「大シルクロード」。

朝から晩まで休むことなく砂漠をひたすら往くキャラバンを描いたシリーズです。

 

 

 

若き日の平山郁夫の作品と、

晩年の超大作が一堂に会した空間は、まさに圧巻!

この空間を味わうだけでも、美術館を訪れる価値は十分にあります。

 

 

 

とは言え、本展の見どころはこれだけにとどまりません。

広島県尾道市の平山郁夫美術館が所蔵する、

《仏教伝来》の5年後に描かれた《求法高僧東帰図》や、

 

 

 

「エキからエコ。」のポスターにも採用されていた個人蔵の《尾長鳥》といった、

 

 

 

平山郁夫の代表作が数多く出展されています。

それも、シルクロードの美術工芸品と併せて。

 

 

 

展覧会では終始、シルクロードの空気が感じられました。

もはや、この美術館こそがシルクロードの到達点だった。

そう言っても過言ではないでしょう。

都内からサッと行ける距離にはないので、

行こうかどうか悩んでいる方も少なくないはず。

しかし、飛行機で本当のシルクロードに行くよりは、

遥かにアクセスしやすいので、どうぞ前向きに検討してみてくださいませ。

星星

 

 

ちなみに。

心惹かれる作品は多々ありましたが、

最も印象に残ったのが、2001年に描かれたこちらの作品。

《バーミアン大石仏を偲ぶ》です。

 

 

 

2001年3月。

かつて玄奘三蔵も目にしたバーミヤン遺跡の大仏が、

当時のタリバン政権によって破壊され、世界に大きな衝撃を与えました。

貴重な文化財が破壊されてしまったことに、

心を痛めた平山は、報道を知ったその日の夜に、

在りし日の姿を思い出しながら、この絵を完成させたそうです。

なお、この頃より、平山は文化財保護活動に後半生を捧げるように。

「文化財赤十字構想」を提唱し、その生涯をかけて、

アフガニスタンから流出した文化財の保護に尽くしたのです。

 

現在もなお情勢が不安なアフガニスタン。

バーミヤン遺跡の悲劇が再び起こる可能性も無きにしも非ずです。

そんな今だからこそ、平山郁夫という画家を、

改めて見直すタイミングであるような気がします。

 

 

 

 

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